令和7年9月12日(金)午後、公益財団法人教科書研究センターは、教科書セミナーを対面とオンラインによるハイブリッド方式で開催しました。今回は、令和5年度から4年計画で実施している「個別最適な学びと教科書の在り方に関する国際比較調査~諸外国におけるデジタル教科書の政策と実相~」の調査研究の一環として行われた、デンマークの現地調査報告と、若手研究者に対する教科書研究助成事業優秀者の研究発表が行われ、台湾からの参加を含め80名を超える教育関係者が集うセミナーとなりました。
開会挨拶として、千石雅仁理事長からセミナー開催趣旨と講師紹介が行われた後、最初に登壇した新潟医療福祉大学健康科学部の佐藤裕紀氏から、「デンマークのデジタル教科書の現状と教員を支える仕組み」と題して、本年3月に実施された現地調査の結果報告が行われました。デンマークにおいては1960年度後半に個人番号が導入され、2000年代に行政手続きが電子化されるなど社会生活の隅々までデジタルインフラの整備が進んでいること。教育分野においても1990年代からICT活用への投資が継続されていることなど、教育のデジタル化の現状について、とても詳しい説明が行われました。中でも、国内6校の教員養成等の専門職大学院内に設置されている「CFU(教材研究センター)」が教材会社やメディアなど様々な企業と連携して、多様な教材を学校や教員に無料で貸し出すプラットフォームを構築し、教員養成大学の学生も試すことができるなどの報告は、参加者の大きな関心を集めたようです。デンマークでは教科書が法律で特に定義されていなく、検定制度もないという違いはあるものの、これらの取り組みは日本にとってとても参考になると情報となりました。
次に登壇した香川大学教育学部の松島 充氏からは、「数学教育の視点から見たデンマークの数学教科書」と題した報告が行われました。最初に、「考えを可視化したモノをつくってコミュニケーションすることが学びである」などというデンマークの教育思想の紹介があった後、国民学校6年生の四角形を学ぶ授業と8年生の一次関数を学ぶ授業を参観した様子の報告が行われ、GeoGebra(動的なソフトウエア)の活用が授業の前提となっていること、デジタル教科書のコンテンツから子供が個別に問題を選ぶという個別最適な学びを実現していること、その一方で、協働的な学びの生起の難しさもあることなどの説明が行われました。その後、数学教科書の構成に関してデンマークと日本の比較とともに、教育におけるICT活用においては、教師の学習観を明確にすること、活用・探究・デザインの3種を明確に区別することなどが重要であることなど、デジタル教科書の未来に関する説明が行われました。
セミナー後半では、東京大学先端科学技術研究センターの風早史子氏から、「誰もが使える教科書を目指して~学習者用デジタル教科書のアクセシビリティ機能の調査研究~」と題した研究発表が行われ、6種類の学習者用デジタル教科書のビューアを対象にした機能の検証結果が報告されました。その中で、各ビューアの基本的な機能は同じでも、メニューの配置や操作ステップなどがバラバラであること、本文のコピーペーストができないためノートテイクに活用しにくいことなど、読みに困難のある学習者のニーズに沿わない仕様が多くあることが確認されたことの説明がありました。誰もが使いやすい教科書を実現するためにも貴重な報告になりました。
最後に、髙木まさき統括研究監よりセミナー全体のまとめと閉会挨拶があり、2時間に及ぶ教科書セミナーは、今後の教科書の在り方を考えるうえでとても貴重な情報を共有する機会となりました。
【参加者の主な感想】 〇デンマークのデジタル教科書・教材の状況について知ることができ、これからの教材作りにおいて貴重なヒントを得ることができました。 〇日本の教科書との比較がとても興味深かったです。分数を理解する過程の違いに驚きました。 〇前回のエストニアもそうでしたが、各国における教育のデジタル化について、その取り組みを知ることができて良かったです。 〇アクセシビリティ機能の調査研究について、複数のプラットフォームを比較検証したレポートは教科書発行者や関係企業にとって大変有意義な報告となりました。 〇アクセシビリティ機能については、これまで機能の検証が十分とは言えない状態だったので、今後の改善していくうえで貴重な資料となりました。

デンマーク調査の報告を行う佐藤先生

デンマークの教科書・教材について説明する松島先生

教科書研究助成事業優秀者として表彰された風早先生(中央)