9月20日(金)午後、公益財団法人教科書研究センターは、例年開催している教科書セミナーを対面とオンラインで開催しました。今回は、センターが令和5年度から4年計 画で実施している「個別最適な学びと教科書の在り方に関する国際比較調査~諸外国にお けるデジタル教科書の政策と実相~」の調査研究の一環として、「エストニア調査及びIARTEM(国際教科書・教育メディア研究学会)2024報告」をメインテーマとして開催したもので、ハイブリッド方式により80名を超える教育関係者が参加しました。
開会挨拶として、千石雅仁理事長からセミナーの趣旨と講師紹介が行われた後、最初に登壇した広島大学の二宮皓名誉教授から「エストニア共和国のデジタル教科書~世界最先端のデジタル教科書システム~」と題して、本年3月3日~5日にかけて実施された現地調査の結果が報告されました。人口130万人あまりのエストニアが、世界に先駆けたデジタル戦略を行った結果、2003年にSkypeを開発したこと、国民のデジタルスキル向上戦略によってインターネットの普及と「教育のデジタル化」が推進されたこと、加えて、デジタルコンピテンス育成のための「教員養成・研修」が徹底されたことなどによって、PISA2018においてフィンランドを抜いて欧州トップ、世界のトップクラスに躍進したことなどの説明があり、参加者から大きな注目を浴びました。また、エストニアで発行されるデジタル教科書・教材のポータルサイト「Opiq」の概要と特色の説明があり、ポータルサイト上のデジタル教科書・教材はすべて一つのライセンスでいずれの学年相当のものでも自由に使用できることや、2016年から2019年の3年間で利用者が「10倍」に増えたこと、さらに、エストニアのデジタル教科書の今後の挑戦など詳しい説明が行われました。
次に登壇した香川大学教育学部の松島充教授からは、「数学教育の視点から見たエストニア教科書・教材」と題した報告が行われました。前半は、エストニアの教育環境や教育制度、ナショナルカリキュラムや数学カリキュラムと目標及び基礎学校で目指すコンピテンシーなどの説明があり、後半は、2つの授業参観と教科書等のポータルサイトOpiqについて、授業の様子とともに教師が自由にコンテンツを付加できる内容編集システムなどについて実際の写真や動画を使った説明がありました。さらに、デジタル教科書の評価問題やノート機能、授業の構成、そして、エストニアのデジタル教科書は「個人での学びの深化を志向した教科書」になっているなどの説明がありました。そして最後に、「デジタル教科書とは何か?」「AIのテクノロジーは教科書をどのように変化させるか?」「LMSとの関係はどのように変化するのか?」などについて問題提起されました。その後行われた質疑応答では、紙の教科書とでデジタル教科書の使い分けや今後の見通し、プラットフォームの開発予算とその負担割合、アカウントの付与方法とその予算負担、ライセンス料の配分方法などについて活発な質疑応答が行われ、日本のデジタル教科書制度と比較する場面も見られました。
続いて、二宮皓教授からIARTEMパリ大会の報告が行われ、32か国130名の参加者による分科会やポスターセッションの中で、デジタル教科書関係に関する研究発表の紹介が行われ、スウェーデン、ノルウエー、ドイツなど諸外国におけるデジタル教科書の活用状況などが共有されました。
最後に、髙木まさき統括研究監より閉会の挨拶があり、2時間に及ぶ教科書セミナーはデジタル教科書の発展・充実を願いつつ、幕を閉じました。
【参加者の主な感想】
〇国の政策によってこうも学習環境が変わるものかとエストニアには感心しました。
○エストニアの教科書事情や海外の教育情報から新たな視座を得ることができました。
○デジタル教科書の普及には国の主導が欠かせないように思いました。
○プラットフォームを通じて、全学年の教科書を見ることができ、他教科へもリンクしているのは素晴らしいことだと思いました。