北欧教育研究会と教科書研究センターは12月17日(火)午後、セミナー「教科書の未来を考える~北欧諸国の事例から~」を津田塾大学小平キャンパスで開催しました。このセミナーは、教科書研究センターが行っている「海外教科書制度調査研究」(代表:二宮 皓広島大学名誉教授)の関連として企画され、北欧における教科書や教材をめぐる状況に関心が高まる中、開催されたものです。
セミナーの講師は、北欧教育研究会に所属する 林 寛平 信州大学准教授、本所 恵 金沢大学准教授、渡邊あや 津田塾大学教授が務め、津田塾大学「比較教育論(4)」の授業の一環として開催され、大学生の他、教育関係者や教科書出版社などを対象にして対面とオンラインのハイブリッド方式で行われました。
最初に登壇した本所准教授からは、「スウェーデンにおける教育のデジタル化」の流れについて、2011年の学習指導要領でデジタルコンピテンスを大事にすることが明記され、その能力を教科横断的に育むためにデジタル環境を整えることなどが今まで進められてきたこと。しかし、最近になって就学前教育におけるデジタル環境については見直しの動きがあることなどの解説がありました。
次に登壇した林准教授は、IT先進国であるスウェーデンにおいて、2022年度の政権交代で大きくデジタル教育推進政策が転換されたことについて解説し、その背景として生徒がスマートフォンを視聴するスクリーンタイムの長さなどが社会問題化し、併せて学力低下が進んだことなどがあげられるとの紹介がありました。加えて、それまで教科書の定義がなかった同国において、法律で定義を定めるとともに、政府が紙の教科書代を一部補助しているため紙の教科書の利用が増えているものの、教科書の定義にはデジタルも含まれていることから、デジタルから紙の教科書に戻す動きがあるわけではないことなどについて丁寧な説明が行われました。
最後に登壇した渡邊教授からは、フィンランドにおける教育のデジタル化の動向について、義務教育年限が18歳まで延長されたことをきっかけにして、高等学校の教科書のデジタル化が進んだこと、また、基礎学校(日本の小・中学校に相当)では、生徒のスクリーンタイムが長くなる中、学校でのスマートフォンを制限する動きが強まり、2024年10月にその制限法案が提出されたことなどについて説明がありました。
今回のセミナーは周知期間が短かったものの、授業を受けた大学生のほか、オンラインを通じて160名を超える参加者が集まり、北欧の教科書制度等に関する関心の高さが証明されました。教科書研究センターとしては、諸外国の教科書制度等について引き続き最新の情報を収集し、調査分析して公表してまいります。
※セミナー動画のアーカイブはyoutubeにて公開しています。
https://www.youtube.com/watch?v=qZ_1eh2k6WI