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2025年3月15日(土)13:30~より、大阪教育大学「みらい教育共創館」にて、教科書発行者と連携してデジタル教科書の体験型研修会を実施いたします。
このセミナーは、現職の教員、教師を目指す学生、そして教育関係者を対象としています。
公益財団法人教科書研究センター(東京都江東区)は、1月20日(月)午前中に台湾台北市の公立学校「和平実験小学校」一行を迎え、教科書制度や次世代に向けた教科書の在り方などについて意見交換を行いました。今回の訪問は、昨年12月に台湾で開催された国際デジタル教科書フォーラムに教科書研究センター職員が参加したことをきっかけにして、現地大学教員の紹介によって実現したものです。
台湾における実験学校とは、既存の学校教育制度とは異なる実験性を持つ学校で2014年に成立した「実験教育法」により全国的に制度化されています。今回来日した和平実験小学校は2017年に設立された学校で、テストもチャイムもない自由な学校として広く知られています。黄志順校長以下19名の教員は、研修出張の一環として教科書研究センターを訪れました。
教科書研究センターに到着した一行は、最初に附属図書館の見学を行いました。教科書研究センターは、台湾の国家研究院と大手出版社との間で、毎年新しい教科書の交換を行っていることもあり、和平小学校の先生方は、日本の教科書を手に取って興味深く見入り、台湾の教科書との違いなどについて意見を交わす姿が見られました。
会議室に移動して行われた意見交換会では、冒頭で髙木まさき統括研究官から歓迎の挨拶があり、「今回の訪問をきっかけにして、教科書の交換だけではなく両国における教育改革と教科書の在り方に関する情報交換が継続されることを願っています。」ということが伝えられ、その言葉を受けた黄志順校長は、「教科書の内容を加味しつつ、教科書を超えていくことがこれからは必要だと思っています。日本の教育及び教科書に対する真摯な取組みを学び、次世代に渡る教科書の在り方について意見交換を行いたい。」と話されました。
続いて、新津勝二事務局長から「教科書研究センターの紹介と日本における教育の情報化」についてのプレゼンが行われ、GIGAスクール構想によって、『多様な子供たちを誰一人取り残すことなくという理念の下、学習者主体の学びが実現』しつつあるなど、日本における教育情報化の現状と課題についての説明が行われました。
プレゼンを受けた和平実験小学校の先生方からは、教員研修の進め方や学校で開かれる公開研究会の内容と回数など、さらに教科書の編集委員などに関する質疑応答が行われました。一方、センター側からは、台湾におけるデジタル教科書の活用状況や教科書の内容を踏まえた教材の開発方法などについての質疑応答が行われ、教師不足などの共通の課題についても現状が話し合われました。およそ1時間に渡って行われた意見交換会は、終始活発な議論が交わされ、双方にとってとても有意義な時間になったようです。
最後に、黄志順校長から「教育は次世代の子供たちにどういったものを受け継いでもらいたいのか、何を学んで欲しいのかというところに焦点を向けていきたい。教科書は、先生方が教科書に使われるのではなく、中身を熟知した上でいかに活かすか使う側にならなければならないと思います。台湾と日本で共通している教育上の課題を一緒に学んで解決していきましょう。これからもよろしくお願いいたします。」という言葉が述べられ、訪問団は笑顔で教科書研究センターを後にしました。
1月11日(土)午後、公益財団法人教科書研究センターと国立大学法人大阪教育大学の共催で「みらい教育セミナー」を開催されました。ワークショップ形式の同セミナーは、『デジタル教科書の新たな可能性を探る~個別最適な学びと協働的な学びにおける活用を通じて~』をテーマにして、信州大学教育学部の佐藤和紀准教授、山梨大学教育学部の三井一希准教授、京都教育大学教職キャリア高度化センターの大久保紀一朗講師の3名の下、大阪教育大学天王寺キャンパス「みらい教育共創館」で行われました。
最初にオンラインで登壇した信州大学の佐藤准教授からは、教科書を使う効果や教科書の構造に関する理解など教科書活用の基本に関する振り返りが行われた後、自己調整学習時代の教科書活用に関する期待として、①一人でも教科書が読めるように読み方使い方を指導すること、②問題解決型の学習でデジタル教科書を活かすこと、③個別最適な学びと協働的な学びにおいてデジタル教科書は「情報の収集」「まとめ・表現」で活用されることが多いこと、④紙の教科書もデジタル教科書も一人一人が選択・判断して使えるよう学習環境をと整えることが重要であることなどの説明や情報提供が行われました。
続いて、山梨大学の三井准教授からデジタル教科書の活用場面の分類に関する調査結果が発表され、活用場面は大きく4つに分類でき、下位の分類を行うとさらに9つに分類されることが示されました。具体例として、教科別に様々な活用場面と下位分類があることが実際の教科書ページを使った説明があり、紙と教科書と同様に使う場面がある一方で、デジタルコンテンツを使う場面もあること。そのデジタルコンテンツに書き込みや付箋・テキストブックでコメントを書くこと。さらに、汎用のクラウドツールと組み合わせて使うこともあるなど、ICT活用先進校における事例の紹介が行われました。
次に、「教科書の読解ワークショップ」が京都教育大学の大久保講師の下で行われ、子どもたちに教科書の構造を教えるための教師の活動として、①教科書の構造の把握、②連続型テキストの把握、③非連続型テキストの読解、④テキスト同士の同定、⑤教科書が伝える学習活動の把握の5点があることの説明がありました。その後、社会科の教科書を使ってグループ毎の学びとディスカッションが行われ、教科書で最初に読む場所や2番目に読む場所、構造や連続型テキスト(文章)の把握とグループ化、そして非連続型テキスト(グラフや写真)の読解。さらにテキスト同士の同定(文章の内容と図表絵グラフ等が対応しているかどうか)。最後に、教科書が伝える学習活動の分類が行われました。参加者はそれぞれの考えを出し合って、見開きの教科書上にはいろいろな構造があること、その構造同士が対応し合っていること、そして、子どもたちが自ら学ぶことができる構成になっていることを理解し合いました。
【新津勝二教科書研究センター事務局長の講評】
紙かデジタルの議論の前に、教科書が子どもたちの思考力・判断力、表現力などを育成するための構造になっていること。そして、各教科書発行者が「学習指導要領のねらいを確実に達成するための創意工夫を重ねている。」ことにも気づかされたワークショップでした。新しい教科書の使い方を実践的に学ぶことができるこのようなワークショップを、若手教員や教師を目指す学生を対象にして今後も開催していきたいと考えています。
【ワークショップ参加者の感想】
〇自立した学習者を育てる第一歩として、デジタル教科書に限らず教科書の読み方を子どもたちに教えることが重要だということが良く分かりました。
○教科書の読み取り方は、校内研修でも取り扱って授業力のボトムアップを図っていきたいと思いました。
○子どもたちが教科書を自分で「読める」ようにするための指導が必要で、そこを抜きにして「自由進度」とか「複線型」などの授業は難しいと感じることができたワークショップでした。
北欧教育研究会と教科書研究センターは12月17日(火)午後、セミナー「教科書の未来を考える~北欧諸国の事例から~」を津田塾大学小平キャンパスで開催しました。このセミナーは、教科書研究センターが行っている「海外教科書制度調査研究」(代表:二宮 皓広島大学名誉教授)の関連として企画され、北欧における教科書や教材をめぐる状況に関心が高まる中、開催されたものです。
セミナーの講師は、北欧教育研究会に所属する 林 寛平 信州大学准教授、本所 恵 金沢大学准教授、渡邊あや 津田塾大学教授が務め、津田塾大学「比較教育論(4)」の授業の一環として開催され、大学生の他、教育関係者や教科書出版社などを対象にして対面とオンラインのハイブリッド方式で行われました。
最初に登壇した本所准教授からは、「スウェーデンにおける教育のデジタル化」の流れについて、2011年の学習指導要領でデジタルコンピテンスを大事にすることが明記され、その能力を教科横断的に育むためにデジタル環境を整えることなどが今まで進められてきたこと。しかし、最近になって就学前教育におけるデジタル環境については見直しの動きがあることなどの解説がありました。
次に登壇した林准教授は、IT先進国であるスウェーデンにおいて、2022年度の政権交代で大きくデジタル教育推進政策が転換されたことについて解説し、その背景として生徒がスマートフォンを視聴するスクリーンタイムの長さなどが社会問題化し、併せて学力低下が進んだことなどがあげられるとの紹介がありました。加えて、それまで教科書の定義がなかった同国において、法律で定義を定めるとともに、政府が紙の教科書代を一部補助しているため紙の教科書の利用が増えているものの、教科書の定義にはデジタルも含まれていることから、デジタルから紙の教科書に戻す動きがあるわけではないことなどについて丁寧な説明が行われました。
最後に登壇した渡邊教授からは、フィンランドにおける教育のデジタル化の動向について、義務教育年限が18歳まで延長されたことをきっかけにして、高等学校の教科書のデジタル化が進んだこと、また、基礎学校(日本の小・中学校に相当)では、生徒のスクリーンタイムが長くなる中、学校でのスマートフォンを制限する動きが強まり、2024年10月にその制限法案が提出されたことなどについて説明がありました。
今回のセミナーは周知期間が短かったものの、授業を受けた大学生のほか、オンラインを通じて160名を超える参加者が集まり、北欧の教科書制度等に関する関心の高さが証明されました。教科書研究センターとしては、諸外国の教科書制度等について引き続き最新の情報を収集し、調査分析して公表してまいります。
※セミナー動画のアーカイブはyoutubeにて公開しています。
https://www.youtube.com/watch?v=qZ_1eh2k6WI
公益財団法人教科書研究センター(東京都江東区)は、12月8日(日)に台湾台北市で開催された「国際デジタル教科書フォーラム」に出席して、デジタル教科書の現状と課題について講演するとともに各国関係者と情報交換を行いました。
このフォーラムは、台湾教科書出版協会が主催したもので、台湾・香港・韓国・日本からデジタル教科書に関する専門家や教育出版業者の代表が招かれました。その主なねらいは、東アジア諸国のデジタル教科書の政策展開はAI技術が教育や教育出版産業に与える影響について議論することで、会場となった張栄発基金国際会議センターには、デジタル教科書に関心を持つ200名を超える専門家や学者が集まりました。
教科書研究センターからは、千石雅仁理事長、伊東千尋理事(教育出版社)、新津勝二事務局長・副館長が出席して日本側の講演を行いました。講演に先立ち、千石理事長から、本フォーラムに招待されたことに対する御礼の挨拶とともに二人の講師紹介が行われました。続いて登壇した新津局長からは、「日本における教育の情報化とデジタル教科書の政策発展~新たな学びの実現と教職の魅力向上~」というテーマで、GIGAスクール構想による1人1台端末等の実現によって〝新たな学び“のスタイルが全国に拡がってきていること、デジタル化が進んだとしても教科書が「主たる教材」としての役割を果たしつつ、デジタル教材や学習支援ソフトウエアとの接続、連携強化を図ることが必要であることなどの説明が行われました。次に登壇した伊東理事からは、「デジタル教科書の発展への取り組み」として、デジタル教科書の開発を行っている立場から、デジタル教科書の現状と課題についての説明が行われ、その課題を解決するためには、教育のデジタル化が、個別最適な学びを実現するとともに、双方向性を確保し、学習履歴を可視化するなどそれぞれがシナジーを生み、教育効果が最大化されるということを先生方に理解していただく必要があることなどが語られました。
各国の講演後に開催された座談会では、それぞれの講演に対する質疑応答が行われ、AIデジタル教科書やAI教材用のプラットフォームの構築に質問が集中する中、GIGAスクール構想の効果として、「多様な子供たちを誰一人取り残すことなく、個別最適な学びと協働的な学びが着実に拡がってきていることなどの説明を新津局長が行い、参加者の関心を集めていました。
なお、センター一行は、翌9日(月)午前中に国家教育研究院を訪問し、教科書図書館を見学した後、研究院長や教科書研究センター研究員、図書館館長と、今後の連携方策等について意見交換を行いました。また、午後からは、台湾における大手教科書発行者の一つである康軒文教社を訪れ、デジタル教科書について活発な意見交換とデジタル教科書の操作体験を行うなどして、充実した3日間の出張を終えました。
令和6年12月17日(火)に北欧教育研究会と教科書研究センターで開催しましたセミナー「教科書の未来を考える-北欧諸国の事例から-」のアーカイブを公開いたしました。
以下youtubeチャンネルよりご覧ください。
令和7年度若手研究者に対する教科書研究助成の募集は終了しました。
多数のご応募、誠にありがとうございました。
スウェーデン政府がデジタル教育推進政策を転換したことが大きく報道されるなど、北欧諸国における教科書や教材をめぐる状況が日本国内でも関心を集めています。
つきましては、下記のとおり北欧教育研究会と教科書研究センターでセミナーを開催することとなりましたのでご案内申し上げます。
なお、本セミナーは、津田塾大学「比較教育論(4)」の授業の一環として開催しますが、どなたでもオンラインご参加いただけます。
<セミナー>
【テーマ】 「教科書の未来を考える-北欧諸国の事例から-」
【日時】 令和6年12月17日(火)14:40〜16:10
【講師・内容(予定)】
◎林寛平氏(信州大学准教授)、本所恵氏(金沢大学准教授)
「スウェーデンにおけるデジタル教育推進政策の転換」
・政策転換の背景
・スウェーデンの教科書制度概要
・現場での反応
・主要アクターの立場について など
◎渡邊あや氏(津田塾大学教授)
「フィンランドの教科書制度と近年の動向」
【開催方法】 オンライン(Zoom ミーティングによるライブ配信)
【参加費】 無料
【申込締切】 令和6年12月17日(火)開催まで(定員250人)
【申込み】 セミナーを視聴されるお一人ずつ、お申し込みフォームにご入力ください。
<お申込みフォーム>(Googleフォームへリンク)
https://forms.gle/fdD7wvxGDMqLYC5T7
当日の参加URL等は、お申込みフォーム入力後に画面上に表示されます。
当日まで大切に保存ください。
【資料のダウンロードについて】
(PDF)海外教科書制度調査研究報告書(スウェーデン部分を抜粋)(2024年12月6日更新版)
(参考:海外教科書制度ページへリンク)
※期間限定でアーカイブを残す予定です。→アカーブを公開しました。
※今回はZoomミーティングでの開催となります。ご視聴される際は、画面・音声のオフをお願いいたします。
※本セミナーは終了しました。
公益財団法人教科書研究センターは、12月3日(火)の午後に韓国教科書研究財団一行を迎え、教科書の研究分野やデジタル教科書に関連する研究などについて意見交換を行いました。同センターと財団はこれまで長年にわたり日本と韓国の教科書を交換してきたという関係があり、今回が2回目の訪問になります。
訪問団は、ファンボウン理事長、ユスンギ教科書情報館長、ビョンジャジョン研究部長の3名で構成され、教科書研究センター側は、髙木まさき統括研究監、新津勝二事務局長・副館長、小滝恵子庶務主任の3名が出席しました。まずは、互いに用意したお土産を交換し、温かい雰囲気の中で意見交換会が始まりました。
会議は、髙木統括研究官による心温まる歓迎の挨拶からスタートし、事前の準備された質疑応答項目に基づいて進行されました。特に、韓国教育部が2025年からAIデジタル教科書を導入する計画を発表したこともあって、デジタル教科書に関する現状と課題について活発な意見交換が行われました。お互いの質疑応答は予定時間を超えるほど議論が盛り上がり、双方にとって充実した意見交換の場となりました。
また、教科書の研究分野に関する考え方や、文部科学省および韓国教育部との連携についても意見が交わされました。さらに、教科書研究センターが長期的に進めている「海外の教科書制度等に関する調査研究事業」に対して財団側から高い関心が寄せられました。加えて、国内外で教科書研究団体としての認知度が低いという共通の課題についても話し合い、情報発信を積極的に行う広報戦略についてアイデアを共有しました。
その後、訪問団一行は附属教科書図書館を視察するとともに、古い教科書等のPDF化作業などについての説明を図書館職員から受けました。
最後に、ファン理事長から「ぜひ来年は韓国を訪問してください。残された質疑はメールでやり取りしましょう。」という提案があり、3名は笑顔とともにセンターを後にしました。
(新津事務局長のコメント)
「対面で意見交換することの大切さをあらためて感じました。韓国のAIデジタル教科は、検定の範囲をどこまで行うのかといった議論が進められているということなので、その先進的な取り組みは、日本の教科書制度にとっても有益な情報源になると考えています。」